長引くコロナ禍で社会問題になりつつある「バーンアウト(燃え尽き症候群)」。
燃え尽き症候群、と聞くと、あしたのジョーみたいな真っ白けで「やりきったぜ・・・」みたいなイメージがありますが、実際には「不完全燃焼」によるメンタルヘルスの低下、というようなことが現在問題になっていることのようです。
2021年6月15日の「編集長が最近思うこと」でもこの問題について取り上げましたが、アマチュアの演奏家の中でもメンタルヘルスの低下という形で問題になりそうだな、もしくはいま苦しんでいる方がいるかもしれないな、と考え、演奏家を中心に数名の方にお考えを聞くために簡易インタビューの依頼を行いました。
人によって考え方も捉え方も違うと思いますので統一された答えが出てくるわけではないと思いますが、何か参考になればいいなあと思います。
今回はユーフォニアム奏者で学生から社会人の方まで指導もされている今村耀さんにお答えいただきました。
1. コロナ禍が長引き、バーンアウト(燃え尽き症候群)が問題になりつつあります。演奏者としてこの厳しい状況を生き抜く中で、燃え尽きないために、前向きな姿勢を保つために心がけていることはありますか?
私の場合、今後の見通しについて深く考えて冷静になりすぎてしまうことが問題でした。いままでのキャリアにもよるとは思いますが、元号が変わる際や災害のときにも、いわゆる「自粛」「中止」というものは多数存在していましたし、音楽業界の諸先輩方はこういった事態を何度も乗り越えられてきたものと思います。いま演奏者として必要なのは、燃え尽きるという言葉自体が、自分の置かれている境遇に適した言葉ではないと自覚することではないでしょうか。この言葉が頭をよぎるのであれば、音楽家としての面以外でも、疲弊しているはずです。もしそうなってしまっているのであれば、自分に課されていることは何なのか、正面から向き合うことが大切だと思います。常に良い音楽をするために自己研鑽を続ける努力をする。努力をできないくらい燃え尽きてしまう前に自分の気持ちを立て直すこと。燃え尽きを一瞬でも感じたら即座に腰を上げる。自分と向き合えなければ、そこから先は沈み続けて戻ってこれなくなると思います。冷静になりすぎたからこそ、自分から目を逸らさずに前を向いていられました。
2. ご自身が指導をされている生徒さん、特に学生など若い方は、精神的に不安定になりやすいと思いますが、指導者としてバーンアウトの問題(例えば生徒さんが燃え尽きそう、または燃え尽きてしまった)に直面することはありますか? またその場合、どのように対応をしていますか?
昨年度は何度も本番が中止になった方が多かったと思います。燃え尽きないようにとにかく前を向いて頑張っている方が多かったですが、目指していた本番が目の前で何度も折られ、精神的に参ってしまっていた方もたくさんいました。大人の方は自分でケアをすることができていましたが、学生さんの場合は溜まっていたエネルギーが弾け、これから先どうしたらよいのかわからなくなってしまった子もいたので、直接話し合うことの大切さを痛感しました。これから何をしたいか?ではなく、いま自分がどのような状態であるのかということを話してもらい、言葉にすることで向き合ってもらったことが多かったように思います。それを踏まえたうえで、私の経験の中で足掛かりになりそうな話を探し、少しでもこれからの原動力になれば、背中を押してあげられればと、参考に語ることは何度もありました。一方通行ではなく、できるだけ同じ目線で物事を見て、手を引っ張るのは指導者として、音楽以外の面でも必要なことだと思います。
3. 2の質問ともつながってきますが、特に学生の場合、吹奏楽や楽器演奏には 何かとお金もかかりますから、保護者などからの支援をありがたく思いつつも、ときにその支援的なつながりが重圧になってしまう場合もあるかと思います。どのように対処したら良いと思われますか?
今回のような状況だと、以前に比べて様々な面でご協力を仰ぐのが難しい場合もあると思います。ここで重要になるのが、いままでにどのような信頼関係を築いてこれたかです。いままで協力関係が薄かった場合、色々な準備が通常よりうまく進まないこともあると思いますが、以前よりワンテンポはやめの連絡と相談を心がけることが大事だと思います。今までの信頼関係により、スムーズな意思疎通がはかれるため、お互いに委縮し過ぎることなく、必要のなことについてご相談できていると感じています。早めにご相談させていただくことで、準備に時間がかけられるので、急なご負担もかけずに済むのはお互いに良いことです。
4. バーンアウトを防ぐ方法の一つとして、人とつながっている感覚を持つことが大切だと言われています。しかし集まって演奏ができない現状において、つながりの感覚を持つことがコロナ以前より難しくなっているのではないかと感じます。ご自身、つながりの感覚を持つように心がけていることはありますか?また、人とつながっている感覚をうまく持てない方に、アドバイスはありますか?
一緒に演奏すること、会うこと、SNSなどで連絡を取り合うことだけが人とのつながりではないと思います。テレワーク動画・部活が流行りましたが、もともと別録りでの仕事というのがたくさんある現場ですので、それに関しては新しいことにありがちなストレスは感じませんでした。もともとソリストとしての仕事が多いため、誰かとアンサンブルをするということに対しては最小単位であるか、1対大勢であったため、この状況でも、楽譜から見える音楽で、どんな風に出来上がるのかと期待感を持てましたし、それにより、気持ちも落ち着いていたと思います。日頃からひとりぼっちだったり、なかなか誰とも音楽ができないときには、自分のやっていることの先には必ず誰かがいるというのを思い出してほしいです。自分がいま練習している楽譜を作った人がいるとか、同じ楽譜を練習している仲間がいる。あるいは、いつも一緒に演奏していた方々を思い出すのも良いかもしれません。あの人ならきっとこんな演奏をするのではないか?そんな想像も、これまで積み重ねてきた、人とのつながりから来ているはずですので、見えなくても絶対に存在しているたしかなつながりだと思って良いと思います。
5. 従来はあったコンクールなどのイベントの目標が失われてしまい、演奏活動が出来たとしても達成感を得られにくくなっている人もいるかもしれません。目標を作る、達成感を得る、ということに関して、アドバイスがあれば教えて下さい。
区切りのつきやすい具体的な目標が、様々なイベントへの参加だと思います。華やかに見える形で成果披露をすることがモチベーションにつながるのは言うまでもありません。そのような場を設けられないとき、完成した曲をどこかで演奏することではなく、曲を構成する要素を仕上げるための能力の向上に努めるのが一番だと思います。基礎をやれ!とはよく言いますが、可能であれば、ある程度ざっくりと曲を演奏できるようになったら録音・録画してもらい、その後、必要な要素であるアーティキュレーションの出し方やタンギングの種類、フレーズ感などを極めてから録音・録画して聞き比べてください。録画であれば、演奏中の姿勢なども同時に見ることができるので、自分の成長をよりハッキリと感じることができます。上達に向けて頑張った自分を褒めてあげても良いのではないかと思います。
6. 最後になりますが、もしバーンアウトしてしまった場合に、その状態から立ち直るために、どのようなことが効果的だと考えますか?
音楽だけに言えることではないですが、結局は1mmでもやりたいと思えるか、やらなければという気持ちになれるかではないでしょうか?もういいや。と思っても1mmでも何か思うことがあれば、それはやりたいという気持ちの現れなので、本当の意味でバーンアウトしてしまったとは言えないと思います。今はやりたくはないけど、そのうちやろうと思うのであれば、それもバーンアウトしているわけではなく、自分をギリギリで保っている状態かもしれません。自分の率直な気持ちに従ったほうが良いはずなので、もしそのときにやりたくないのであれば少し休んだって良いと思います。誰も後ろ指をさしたり笑ったりしません。自分のことは自分が一番わかるはずです。少し休んだらまたはじめればいい。それが音楽をやるということだと思います。
今村さん、ありがとうございました!
うまく自分の中に取り入れられそうな考えがあれば、ぜひその考えを取り入れて、前向きなエネルギーに転化してみてくださいね。
Wind Band Pressでは、2020年にも「コロナ禍を私たちはどう生きたか~未来に残すそれぞれの記憶~」というインタビューの特集を組んでいますので、そちらも参考になるかもしれません。
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